ピアニスト 中野 慶理

  舞台の袖に立ち深呼吸する。わずかな不安と限りないときめき−自分の演奏の為にわざわざ足を運んで下さったお客様への感謝の念を込めて舞台へ出ていく直前のあのワクワクする一瞬…。 9月15日に、第4回元町ミュージックウィークの中の催し物の一つとして開かせて頂いたファミリアホールにてのリサイタルもそんな気分で始めることができて幸せでした。 古風なおちついた造りのホール、よくひびく、ちょっと不思議な感じの音響、なかなか雰囲気のある会場で、リハーサルしている間に想いをめぐらせたものです。このホール、 30年前はどのように使われていたのだろうか、そして50年後はどうなっているだろうか…。そう、リサイタルではいろいろな時代の作曲家の作品を弾きます。何百年も前の過去へ、 そして私達の時代よりほんの数十年前へ、と旅をするのです。それぞれの時代に生きた作曲家の気分に乗って…。

 足を運んで下さったお客様の雰囲気もとても最高、すごく楽に音楽の中へ入ってゆくことのできた一時でした。自分で言うのもなんですが、スクリャービンのソナタ第7番や、 フランクのプレリュード、コラールとフーガを弾いている時など、かなり自分の心の奥底からの衝動に突き動かされて弾く事が出来ていたように思います。 自分の演奏の出来そのものはどうでもよくなり−これはとても変な言い方なのですが−ただその曲において自分の心から聴きたい、 と願う理想の演奏を想像しつつ自分の体がつづる音や音楽を耳で聴く事に集中する、という境地に一瞬ではありますが足を踏み入れる事が出来ていたのかな、と思えるとても嬉しい瞬間だったのです。

 お客様方の暖かい拍手に心からの感謝の気持ちを込めつつ、2曲のアンコールでリサイタルを締めくくらせて頂きました。楽屋でのお客様との束の間の語らいのあと外へ出てみると、 ロマンティックな神戸の街が広がっていました。神戸っていいな、大好きだな、と実感しつつ、帰路に着きました。また近いうちにこんなステキな一時が皆様と分かち合える日が来る事を願いつつ…。 最後になりましたが、第4回元町ミュージックウィークでのリサイタルでの出演を、と声をかけて下さった「アマデウス」の曽根保彦様はじめ、関係者の皆様方に厚く厚くお礼申し上げる次第でございます。 本当に有難うございました。




もくじ